2020年2月1日開催「今さら聞けない、伝統芸能「基本のキ」。《能楽師・林宗一郎》編」の授業レポートです。
夢幻能(時間が交錯する、能独特のスタイル)をベースに、江戸時代の皆川淇園、現代の弘道館、そしてこの学問所の未来という時間が描かれる物語。
能楽を中心に、さまざまな古典芸能の演者が参加するこの公演の、演者が講師を務める連続講座。演者が(自主的に)聞き手、話し手をつとめる、豪華な時間となりました。
ようこそ、能の時間軸へ
森田さんから林さんへの最初の質問は、ズバリ「能て何ですか?」。
林宗一郎:
奈良の山奥の談山神社(藤原鎌足の645年に談合した場所、それゆえに談山神社)で、観阿弥たちが、貴人たちが来るのを狙って京都でひと花咲かせるために準備をして、京都の今熊野で披露。当時はそこに大きな池があり、高貴な方々が船遊びをされていた。世阿弥らは、時の権力者・足利義満がそこに来る時を狙って、芸を披露した。義満はとにかく美少年が好きで、世阿弥は義満に見初められて、文学を教わり、能に中国の漢詩をとりいれたり、外国の言葉もとりいれ、能を洗練させていきました。
まずは、能の始まりを解説。
能を知る上で欠かせない演目に「翁」があります。
林:
「翁」は、「能にして能にあらず」といわれていて、儀式的な演目。その場を清めて、「国土安穏 五穀豊穣」を祝うだけのもので、ストーリーがあるわけではない。神様の言葉を発するというか。これが、観阿弥世阿弥が率いていた「座」のやっていた能の根本といわれています。
このように能は「鎮魂」をルーツとしているのです。それゆえ、能は歌舞伎のような、役者を中心とした「お芝居」ではないと、林さんは言います。
林:
わたしのようなシテ方は、能の主人公的な役目を演じることがあります。みなさん、「あなたのリードで舞台が進んでいるんですね」とおっしゃるんですが、実は真逆なんです。舞台には、囃子方の演奏の波、地謡と呼ばれるコーラス隊のうねりの波がある、ワキ方(物語の最初に出てきて、説明をする役どころ)の波がある。舞台の上では、いろんな波が渦巻いているんですね、シテである私は、その大海原を進む船なんです。どうやって波に乗って行けばいいのか。それを見極めるのが大事なんです。これが「ノル」ということなんです。
「いや、お会いして10年になりますが、今日、初めて感動しました(笑)」と森田さん。
同じ古典芸能の世界にいる篠笛奏者の森田さんが、あえて聞く「能って何ですか?」というシンプルな質問に対して、林さんが語った本質にびっくり。
「眠い、難解」と敬遠しがちな能ですが、実は、祈りとノリが満ちている場。観客には、そんな能のメッセージを受け取って欲しいと林さんは言います。
林:
出てきた人が、「こうしてああして、こうなりました、ハイおしまい」じゃなくて、平和を祈念しましょう、食べ物に困らないように神様に祈りましょう、仏さん、ご先祖を大切にしましょう、先祖を愛しましょう、恋愛は美しいことであって間違いじゃない、悪いことを断ち切る心は大切だ。能に描かれているそういうテーマ、これはいつの時代にもあるものだと思います。観客には、そこを共有してほしいと思う。
今回、創作劇として上演する「新〈淇〉劇」は、世阿弥が作った能のスタイル夢幻能(時間が交錯する、能独特のスタイル)を借りて、新しい趣向に挑戦しています。
林:
この作品は、実は複雑な構成になっていて、もしこの世に時間の軸がふたつ流れていれば、というふうな構想のもとにつくられているんです。淇園の生きている時代とわれわれの令和とが、同時に異次元に進行していたとして、ある日、江戸時代の淇園さんが「この学問所は、将来どうなるんだろう」と思いが未来に向く、そして同時に現代の弘道館の館長が昔を思った時に、この引き金が同時に引かれてしまって、時空が歪む、という話なんです。
皆川淇園と、現代の弘道館にいるひとたちがともに抱く思い「学びの場が、末永く続いて欲しい」。それが次元を超えて描かれる。林さんが構想した「未来能」のコンセプト「新〈淇〉劇」です。
これまで幾たびも、取り壊しの危機に遭遇してきた「有斐斎弘道館」。このたび、再興10周年を記念して、有志で「新<淇>劇」を上演します。京都カラスマ大学は、令和の学び舎として、再興10周年をお祝いすべく、この公演を応援しています。※ 入場料の一部は弘道館の保存活動に寄付されます。
詳しくは「有斐斎弘道館再興10周年記念サイト」をご覧ください。
日時:令和2年2月24日(祝) 午後2時開演(開場午後1時) 会場:金剛能楽堂(京都市上京区一条下ル龍前町590) 主催:有斐斎弘道館再興十周年記念実行委員会
レポート:沢田眉香子(有斐斎弘道館再興十周年記念実行委員会) 写真:のぶりん、かなっぺ(カラスマ大学皐月会メンバー)
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