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執筆者の写真京都カラスマ大学

【授業レポート】《花士・珠寶》編/今さら聞けない、伝統芸能「基本のキ」。

更新日:2021年4月5日

京都カラスマ大学とは縁も深い、京都の学びの場、有斐斎弘道館。その再興10周年を迎えるにあたって、ここに江戸時代に学問所を開いていた皆川淇園を主人公にした新作劇「新〈淇〉劇」が上演されます。能楽を中心に、さまざまな古典芸能の演者が参加するこの公演の演者が講師を務める連続講座。演者が聞き手、話し手をつとめる、豪華な時間となりました。この日は、花士・珠寶さんの講座がおこなわれました。聞き手は篠笛奏者の森田玲さんです。

 
いくら素晴らしい材料が揃っていても  土台が不安定だとまったく役に立ちません


華道家ではなく、「花士(はなのふ)」を名乗る珠寶さん。その理由は「単純に、いつもやってることが、お花にお仕えしている、植物にお仕えしているということだから」だそう。


それ以前は、約10年、慈照寺(銀閣寺)で「花方」として仕事をされていました。生花が生まれたとされるのは、まさに室町時代、足利義政公の時代。珠寶さんは、花だけでなく、それより先にあった能楽など、横軸でつながる総合的な教養を深めるための講座も企画してこられました。


珠寶さんは、花を生けるではなく「立てる」と言います。花を立てられるときには、まずその目的があり、場所があり、中心軸を定め、自分を真っ白にするのだそう。


「海外でお花をする時にも、その時の光や風やその時の音、季節ものを自然に。ぜんぶお花が教えてくれるんですね。たぶん、楽譜のように、私のなかにはお花があって、それを感じて、そのまま動くというか」。


京大農学部出身の森田さんは、もともと植物に関心が強く、珠寶さんのお花をする精神に共感しつつも、技術的な「土台」にも関心を寄せました。


珠寶さんが花を立てる時に用いるのは、剣山ではなく、藁を束ねた「こみわら」。これも室町時代からあるものだといいます。作るには、長さのある藁が必要で、機械で刈った(細かく粉砕されてしまう)藁ではダメで、和歌山の立岩農園さんのご協力のもとで、珠寶さん自らが手で田植えし、刈り取っているそうです。一度作ったものは、何年も使って、材料は無駄にしないそうです。

そうして、端正こめてつられた「こみわら」は、花器の中に納められ、鑑賞者には見えません。珠寶さんは、その見えない部分こそが大事、と言います。


「花瓶の中の見えない世界に、いちばん心をつけて、時間をかけて。土台がゆるんでしまったら、花があっても、もう全く役に立たないからです。逆に、土台がしっかりできていたら、お花はしっかり立ってゆくんですね。花瓶の上を私がいじる必要がないんです。そのままの高さ、ボリュームなど、調和する世界をつくってゆける」。


森田さんは、「立て花の土台は、まさしく土ですね」とコメント。それに答えて珠寶さんは、花の見所を「水際」だと言います。「お花は、根元から1センチくらい、大地からすっと立ち上がる、みずみずしい水際を拝見する。花瓶のふちの周りがどんな雰囲気なのか?立ち上がる雰囲気を拝見していだけたら」。


最後に、話題は、今回がお二人の初共演となる「新〈淇〉劇」に。上演される能舞台には、影向(ようごう)の松、つまり神さまが降りてこられるよりしろが、鏡板という名前通り、映っています。今回、珠寶さんは、その鏡板に向かって花を立てます。


「今回は松の方、神様に向けて立てさせていただくので、、、人(客席)には背中を向けて立てるので、ちょっとびりびりしてます。どう見ていただけるかは自由ですけど、リハーサルをやてみて、背中でやるのって、緊張しました」。


舞台に役柄(現代の弘道館館長)として登場して、花を立てる珠寶さん。そのバックに流れるのは、森田さんの篠笛です。さてさて、「新〈淇〉劇」どんな舞台になるのでしょうか。




レポート:沢田眉香子(有斐斎弘道館再興十周年記念実行委員会) 写真:ヤマグチノリコ(カラスマ大学皐月会メンバー)


 
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