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執筆者の写真京都カラスマ大学

【授業レポート】「大正・昭和のモダン着物に触れる(1)〜国登録有形文化財の山口家住宅で虫干し体験」

更新日:2023年7月31日

 

400年も続く旧家「山口家住宅 苔香居(たいこうきょ)」にて、大正時代から昭和初期の時代の着物の虫干しをしてきましたよ。




20代目当主・山口俊弘さんの祖母・律子さんが着物好きで、今もたんす11竿(さお)に約440点も保管されているのだとか。





今は着る人がいないのと、コロナ禍で人が集まれないのとが重なって、しばらくたんすに眠っていたままになっていたそれらの着物と帯を大切に保管するため、虫干ししたい。そんな山口さんの声を受けて、今回はカラスマ大学の授業として、生徒のみなさんと力を合わせて挑戦することになりました。


集まった顔ぶれの中には、大学生も、小学生4年生も。





どれも貴重な着物なので、一つひとつ丁寧な取り扱いをしましたが、百数十枚あっても生徒みんなで運び出せば早いもので、すぐに広間、仏間、茶室の3部屋が埋めつくされるほど並べられました。これでも、実はたんす2竿分、全体の1/3程度!





衣紋掛けやハンガーに吊るさなくても、こうしてたんすから取り出し、着物を包む「たとう紙(文庫)」を開くだけでも風が通り、じゅうぶん虫干しになるそうです。


さらに、「最もいい虫干しは、着ることです」というとてもすてきなお話を、大正初期から続く呉服染め卸問屋「まつや古河」の古河一秀さんから伺いました。






古河さんは、10年ほど前にこの「山口家住宅 苔香居」に残された着物たちに出会い、以降、保管や整理のお手伝いをされています。


山口律子さんは大変おしゃれな方だったそうで、すべての着物が「おあつらえ」、すなわち完全なオーダーメイドです。






これらの着物の美しさはもちろんのこと、みんなを驚かせたのは、着物が包まれているたとう紙に、いつどこに着ていったか、どの帯を合わせたかが手書きのメモが残されていること。


そのメモを元に、古河さんが、当時の写真を挟み込まれているものもあり、とてもわかりやすく整理されています。初釜や近所の習い事に着ていった時のことも書かれてあり、さながら着物が日記帳のようです。






「今なら、インスタグラムですね」と古河さん。まるでタイムスリップして律子さんの暮らしを追体験をしているようだという生徒の声もありました。

大正時代の頃は主流だった3枚重ねの婚礼衣装も見せていただきました。





白の上に赤、赤の上に黒と重ねることが決まっており、3枚まとめた状態で袖を通し、丸帯を縦矢に結ぶのだとか。帯はそれゆえ現代より太いそうです。









着物の着方が現代と違って、おはしょりしない「ひきずり」と呼ばれるもので、名前の通りひきずって着ていたようです。


また、そうすると裾が左右両側に見えるため、刺繍も両側にある「両褄(りょうづま)」で大変あでやかな着物でした。




黒色の着物には松、赤い着物には竹、白い着物には梅と松竹梅の縁起のよい刺繍が施されていました。


大正時代の絹糸は、現在の品種改良された太い糸を出す蚕でないため、細く軟らかいらしく、着物を畳んでくれた生徒さんたちがとても軽いと言っていました。





さて、古河さんが


「3枚重ねの着物のうち、いちばん上に着る黒色だけ袖が短く、重ね合せて着ることが再現できないんです。なぜだと思いますか」


と問われました。





その理由は、結婚後に袖を短く縫い直しているから。「切るというと縁起が悪いので、袖を留める、と言いますね」と古河さん。


「留袖って、そういうことか!」着物に詳しい生徒の皆さんたちも、膝を打ちます。


授業後のアンケートには、「一生を嫁ぎ先に留まるという覚悟を感じた」「着物と人生を共にしているようだ」「時代背景を肌で感じた」という感想がありました。






今回、カラスマ大学の贅沢な教室となった「山口家住宅 苔香居」は、かやぶき屋根の門が素敵な日本家屋。作業の合間や終わった後に、特別に建物内の見学もさせていただきました。


室内は夏の設えで、襖(ふすま)や障子が風通りのよい葭戸(よしど)に切り替えられておりました(この葭戸もただものではなく、実はものすごい職人のこだわりが!)。陶器製の釘隠しは、富士山の意匠。建築的にも見どころがたっぷりです。


おだいどころには大きな竈門(かまど)が5つもあり、現在も現役。このサイズ感、私はお寺でしかみたことがありません。でも、先日も山口さんがお米を炊かれたのだとか。煙突は現在の便利な金属の煙突ができるより前にあったので、瓦を組み合わせたもの。井戸水も汲み上げられます。


「寺にはない、生活の中の美を体験してほしい」と山口さんは言われていました。





納屋には脱穀機や鍬(すき)など、近隣で使われていた農具もたくさん集められており、まるで歴史施設に来たかのようでした。でも、「山口家住宅 苔香居」は、イベントなどで公開されることもありますが、通常は生活の場。観光施設のように「お金を払えば自由に出入りできる場所」ではないので、今日はほんとうに特別です。


美術館で見るのとは違う、生活の中の美に触れる、とても豊かな1日でした。



レポート:かなっぺ

写真:Ryota.F

授業コーディネーター:晴山力






 

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