※2023年6月4日(日)開催「大正・昭和のモダン着物に触れる(2)〜国登録有形文化財の山口家住宅で虫干し体験」の授業レポートです
阪急上桂駅を降りて西へ徒歩10分ほど。住宅街の中でひと際目立つ、趣のあるかやぶき屋根の大きな門。これが、山口家住宅・苔香居(たいこうきょ)。今日の京都カラスマ大学の教室です。
1週間前の5月27日(土) にここで開催した授業では、着物をたんすから出し、たとう紙(文庫)を開いて、広間、仏間、茶室の3部屋にずらりと並べました。
▼前回授業のレポートはこちらから
「大正・昭和のモダン着物に触れる(1)〜国登録有形文化財の山口家住宅で虫干し体験」
https://www.karasumauniv.net/post/report_20230627_kimono
虫干しとは、衣類や書物のお手入れのことで湿気・防虫のために行う作業のことで、大切だからといってしまいっぱなしにせず、こうして時々、たんすから出して風にあてることが大切なのだそうです。
今回の授業では、1週間のあいだ虫干しした着物や帯を、再びタンスの中に戻す作業を行います。
この虫干し体験授業のコーディネーターは、ふだんから苔香居でボランティアスタッフもされている、晴山力さん。そして、旧家に眠る大切な着物を扱う授業のため、アドバイザーとして西陣の着物店「まつや古河」の古河一秀さんに先生をつとめていただきました。
私たちの到着を迎えてくださったのは、山口家 20代目のご当主である山口俊弘さんと、愛犬のジョイ。
山口さんと古河さんとのご縁は、「こんな着物があるんだけど、一度見てもらいたい」という山口さんのご相談から始まったそうです。
天気予報では大きな台風が襲来すると言われ、ずっと雨マークが並んでいた1週間。雨なら延期?の心配もありましたが、当日は汗ばむほどの見事な夏空の下、16 名の生徒さんが集まってくれました。
前回(5/27)の授業とは順序が逆で、まずは着物がたくさん広げられている広間で古河さんのお話を聞いてから、片付けの作業にとりかかることになりました。
山口さんの祖母に当たる律子さんは、今からちょうど100年前の大正 12 年に山口家に嫁いでこられました。その山口律子さんが生前にお召しになっていたものが、今回の授業で扱う着物や帯です。
古河さんは、様々な面から着物と暮らし、律子さんの生き方を紐解くようなお話を聞かせてくださいました。
たとえば、時代の流れの中での、婚礼衣装の変化について(三枚重ね→打掛→ウェディングドレ スという変化)。関東と関西の、地域による着物の取り合わせの違いについて。
僕は「両褄(りょうづま)」と呼ばれる、着物の両方の裾にデザインをつけた着物を初めて見ました。そして、季節のものや縁起物など、着物や帯に描かれたそれぞれの柄に意味が込められているという話も興味深かったです。
律子さんが山口家に嫁いで来られた時代は、暮らしの中の着物が今よりもずっとあたりまえだった時代(注:それでも、大正〜昭和の初めにかけては都市を中心に、モダンな洋服でお出かけする人も登場しはじめています)。
驚いたのが、それぞれのたとう紙の中に、律子さんが「いつ」「どこへ」その着物を着て行かれたのか、どの帯を合わせたのかが書いてある紙が入っていたことです。元は、古いたとう紙に直接メモ書きされていたものを、古河さんが切り取って一緒に保存されているのです。
この文字を見ているだけでも、律子さんがどれだけセンスが良くて、どれだけ季節や行事、会う相手の事を考えて着物を選んでいたのかがすごく伝わってきました。カラスマ大学の学びの場を媒介として、律子さんというひとりの女性の感性を感じられた気がします。
まだまだ古河さんのお話を聞いていたかったのですが、お昼休憩のあと、いよいよ、着物や帯をたとう紙にしまい、元通りにタンスに戻す作業に取りかかります。
先週ほどいたたとう紙の紐を再び結びながら、着物の柄を見て驚き合ったり、実際に触れてみている姿からは、生徒のみなさんのワクワク度合いが伝わってきました。普段の生活のなかで着物に触れている方、着物が好きな方が多かったみたいでした。
授業の最後は、感想のシェアタイム。
「大切に残していたことが今につながるのはとてもいいことだと思った」
「昔の人の、ものを大切にする精神を知れた」
「祇園祭の帯や婚礼衣装を見れて良かった」
という、昔の丁寧な生活を知り、触れてみたからこその感想も多かったです。
「もっと他の着物も見てみたい」
「番号集めるのに必死になってしまったから、もっとゆっくり見ればよかった」
など、次回の虫干し授業を期待する声もありました。
以前にカラスマ大学で先生をしてくださった善林英恵さんも参加されていて、「和風と洋風を合わせてみたものを作れたら、たんすの肥やしになっている古い着物、家族の着物をもっと着てみたい人が増えるんじゃないかと思った」と、新しい視点を持って着物を見られていました。
古河さんは「着物はファッション。いまはいろいろルールがあって、着物はこう着るみたいなものが画一化されてしまっていますが、それが着物を堅苦しいものにしてしまっています。古い着物を今に生かす着方ができたらいいんじゃないかな、と思います」と言われていました。
山口さんは、「うちの着物を、こういう機会でたくさんの方に知ってもらうことは非常に大切だと思えた。あと 2回は一緒に虫干しの会を開催したいですね」と次の虫干しを楽しみにされている様子が伺えました。
僕はこの春から、京都の伝統文化や伝統工芸のことを学んでます。
今までは、染め物や織物といった着物の生地ができあがるまでの工程しか知らなかったんです! でも、今回の授業で着物に詳しい方々のお話を聞くことができ、着物が着られる状態になるまでの工程、着物が今よりももっともっとあたりまえに暮らしのなかにあった時代について知ることができました。そして、古河さんのお話を聞いたことによって、着物の本来あるべき姿を見ることができた気がします。
こういう機会を通して、世代を超えて多くの人に、本物の着物の美しさを知ってもらうことができれば、着物が京都の街中でもっと多く見られる日は遠くないかもしれませんね。
レポート:世良 八玖茂
写真:Ryota.F 授業コーディネーター:晴山力
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