2020年2月1日開催「今さら聞けない、伝統芸能「基本のキ」。《狂言師・茂山逸平》編」の授業レポートです。
お話いただくのは、大蔵流狂言師の茂山逸平さん。狂言は能と同様に猿楽から発展した芸能で、現在は能とともに上演され、単独で上演されることもあります。能楽師ワキ方の有松遼一さんが「常々、狂言の人に聞いてみたいことがいっぱいあって」と、聞き手になり、狂言のイロハをお聞きしました。
狂言は、元祖「ごっこ遊び」
有松遼一:
茂山さん、「狂言師の茂山逸平」って自己紹介されますけど、「能楽師狂言方」と「狂言師」と、どう違うんでしょか?
茂山逸平:
どっちも一緒。僕らは試験を受けたりとか、『今日からプロ』ていうことはないんで肩書きは、もやっとしている。正確に言うと、能楽師大倉流狂言方というのだと思うけど、最近は能の公演から独立して狂言を上演することも多いから、“狂言師”のほうが、一般的にはわかりやすいのかなと思う。
有松:
そもそも能楽と狂言が、どう違うのかを教えていただけませんか?
茂山:
何が違うって、僕の中ではほぼ一緒。ちょっと大層で大がかりなのが能で、シンプルなんが狂言かな。オーケストラと管楽四重奏みたいな。楽器がいっぱいあるのが能で、そこに歌まである。こっちは管弦楽だけとか。シンプルなんです。それと、能は、原作物が多い。『源氏物語』とか、ちゃんとした資料で残っているモノのパロディが能かな。狂言は、そこらへんで拾ってきたような話、的な。もちろん原作ものもあるけど、原作をそのまんまでは上演していない。たとえば、一休さんのとんち話も、狂言では、主人の砂糖を太郎冠者が食べる話(『附子(ぶす)』)に置き換えていたりする。
有松:
登場人物が、名前でなくて太郎冠者(たろうかじゃ)、とか言いますよね。冠者って?
茂山:
太郎は一番目、一郎さん。冠者は冠をいただたもの。元服した成人男性です。基本的に、狂言は若干笑いのエッセンスがあるので、人名を特定するようなことが少ない。固有名詞のでてくるのは、在原業平、お茶屋の通園さん、、、で、、そんなもんちゃう? 能と狂言は当時の権力者に見せないといけないので、笑いの対象となる人物や場所を匂わせることはよくないですね。特定の人や場所を笑うって、一歩間違えると、誰かを傷つけることになりますから。
有松:
狂言は、笑いなんですね。
茂山:
日本で一番古いお笑い、と説明しています。でも昔は、能も笑っていたと思いますよ。例えば『野宮』で六条御息所が在りし日の姿で出てくる。でも、あれは架空の人物やからね。大層にやってるけど、フィクションのそのまたパロディよ。昔の人は、けっこうあれを笑ってたんじゃないかなと思います。能も、結構楽しいもんじゃなかったんじゃないかと思いますよ。
狂言は、実は誰にでも楽しめる、日本で一番古いお笑い。講座の最後には、狂言師直伝の「笑い方」をお稽古しました。
茂山:狂言の笑い方、むつかしそうでしょう?コツは簡単なんです。“は”を7回いうんです。長い“は”を2回、短い“は”を5回。その形さえできてしまえば、狂言の笑いができる。プロっぽく笑うには、1回目の“は”を2回目よりも高い音で出す。プロは一息で、息継ぎせずに円を描く様に笑う。
はァァァ、(↑)はァァァ、は、は、は、は、は!
確かに簡単。そしてほがらか。600年続く狂言の笑い声が、弘道館に響き渡りました。
レポート:沢田眉香子(有斐斎弘道館再興十周年記念実行委員会)
写真:のぶりん(カラスマ大学皐月会メンバー)
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